医療福祉支援センター
医療福祉支援センターでは、院内外のあらゆる専門職と連携しながら多岐にわたるご相談に応じています。患者さんがより良い生活を送るためにどんな支援を行い、どんな思いで業務に携わっているのか、看護師の仲間暁美さん、ソーシャルワーカーの前原一輝さんに語っていただきました。
前原 患者さんやご家族から「医療福祉支援センターって何をしてくれるところなんですか?」と聞かれることがあります。当センターの仕事はなかなか見えにくく、漠然としたイメージを持つ方もいれば、ソーシャルワーカー(SW)という職種自体ご存じない方もおられます。端的に言うと、私たちは院内・外の人やモノの橋渡しをする役割を担っています。
当センターでは事務職や臨床心理士、看護師、ソーシャルワーカーなど、約20名のさまざまな職種のスタッフが専門性を活かして活動しています。ソーシャルワーカーの活動としては、入院患者さんの療養先の調整(退院支援)や外来患者さんの相談援助、当院・他院の受診調整など多岐に渡ります。また、患者サポート相談窓口として、患者さんと医療者の話を聴きながら中立な立場で双方の対話を促進できるよう努めています。患者サポート相談窓口では、「医療者とどうコミュニケーションを取って良いか分からない」、「自分の困っている感じをうまく伝えられない」、「院内スタッフの接遇や設備に意見や要望を伝えたい」などの相談を承っています。そういったことから、患者さんやご家族、院内・外の関係機関や資源などを「点」から「線」にしていくイメージで支援しています。
当院は都道府県がん診療連携拠点病院、エイズ治療中核拠点病院、難病診療連携拠点病院などに指定されており、さらに地域周産期医療センターや小児がん連携病院などの役割もあります。それに付随して、がんや難病の患者さん、特別な配慮を要する妊婦さんなど、私たちが支援する内容にも高い専門性が求められます。そこが強みであると考えています。
仲間 私たち看護師は、主に入院準備部門と退院支援部門という2つの業務に携わっています。入院準備部門では、入院が決まった患者さんに入院中の検査・治療や手術の予定を説明するとともに、内服している薬剤情報を聞き取り、休薬・中止薬等の確認・指導を実施しています。また、在籍する摂食・嚥下障害看護認定看護師により、入院中の誤嚥を未然に防ぐための対応もしています。さらに、ケアマネージャーや地域包括支援センターの担当者に連絡して情報を取り寄せ、病棟や退院支援部門と共有することも行っています。退院支援部門においては、自宅退院が困難な患者の転院を調整したり、在宅療養に向けて訪問診療や訪問看護、かかりつけの開業医につなげたり、在宅サービスを整えるなどの支援をしています。退院前には地域関係者との合同カンファレンスを全国的にも類を見ないほど数多く実施しており、退院に向けて支援体制を日々整えています。その人らしく生きることを支援するために、ともに寄り添い、患者と家族の人生という大切な時間に関わる看護師という職業にやりがいを感じています。
私たち看護師は、患者さんがつらいときに一緒にいて、寄り添い支えるような仕事です。皆さんが順調に回復するよう尽力して、元気にお帰りになる姿を見ること、また、患者・家族が望む最後のときを応援し手助けすること、さらに、患者支援を考える中で新たな支援方法の発見や人とのつながりが広がること、これが看護という仕事の醍醐味であり、やりがいでもあります。努力してきたことが「ありがとう」の言葉になって返ってくると、本当にうれしいと感じます。
仲間 私たちがよく遭遇するのが、「今日か明日、無理なら明後日でもいいから家に帰りたい」と希望される患者さんの退院を、急いで調整するケースです。住み慣れた家でご家族と一緒に過ごしたいという気持ちを尊重し、自宅に戻っても問題はないか、介護に携わる人はいるのか、一つひとつ検討していきます。
「島に戻りたい」というご要望もよくお聞きします。離島にお住まいの患者さんの場合、民間機に乗るのが困難であれば医療用飛行機を依頼することもありますが、これは沖縄ならではの対応かもしれませんね。残された時間が短く、在宅での余生を望む患者・家族の意向に沿うために、刻一刻と変化していく患者さんの状態を確認しながら、迅速に対応できるよう多職種と連携しています。
私が日ごろ心がけているのは、患者さん自身の気持ちを確認することです。ご家族の思いが強すぎるとそちらに目が向きがちですが、まずは本人がどうしたいのかを知ることが大事。例えば、患者さんは自宅に帰りたくても、ご家族は「鼻に酸素の管がついているから自宅で介護するのは無理」などと思っていたりします。でも、実際は1人で食事ができるかもしれないし、電動ベッドがあれば自力で寝起きもできるかもしれません。そういったことを具体的に解決しながら介助方法を伝えると、「これなら自宅でやっていけるのではないか」と、自宅に戻ることをご家族が前向きに受け入れてくださることがあります。そうやって患者さんとご家族の間にあるギャップを埋めるのも、看護師の大切な役目だと思っています。
前原 患者さんに接するとき、私は相談いただいたことへの感謝や、これまでの頑張りをねぎらう言葉を伝えるようにしています。言いにくいこともあると思うので、「可能な範囲で教えていただけますか」といった配慮の一言も必要だと考えています。また、患者さんに加えて、院内スタッフとの連携においても、電話やメールで連絡するときはできるだけ端的に、そして「伝える」だけでなく、きちんと「伝わる」ように意識しています。どうすれば患者さんやご家族にとってプラスになるかを第一に考え、なるべくタイムラグが生じないように考えています。
私が以前かかわった、ある妊婦さんのことが印象に残っています。回数を重ねてお会いするうちに少しずつ信頼関係ができて、無事出産して退院された後、外来受診の度に当センターに顔を出してくださったり、電話で報告・相談していただけたりするようになりました。患者さんが明るい表情で前に進んでいる様子を見ると、この仕事を選んで本当に良かった、と思いますね。お子さんの成長を目の当たりにするのも嬉しい一時です。
私の大学時代の恩師から「ソーシャルワーカーは生きる力を高める仕事」だと教えてもらいました。急なケガや病気で複雑な気持ちになっている方々のお話を聴いて、生活課題を一緒に考え、自己肯定感を持って過ごせるよう生きる力を高める、という言葉がずっと心に残っています。その恩師からは、患者さんに接するときの態度や、ソーシャルワーカーだけでなく人としての在り方を教わりました。それが今につながっています。
仲間 在宅支援の事業所はこの10年でかなり増えました。退院後につなぐ場所が増えたのはいいことですが、選択肢が増えたぶん、どこにつなぐかを見極める力が今まで以上に求められます。このとき重要なのが、どの事業所がどんな医療処置に対応するのかという情報です。しかし、情報は刻々と変わるので、常に新しい情報を把握しておかないと適切な選択と判断ができません。地域の医療職とは定期的に情報交換の場を設けていますが、普段のコミュニケーションの中でも必要な情報はアップデートし、退院調整部門スタッフ全員で共有するようにしています。
ただし、コロナ禍はこのような情報共有が非常に困難でした。対面でのカンファレンスができない上、オンラインで会議をしようにもWi-Fi環境が整わないこともしばしば。現在ではリモート会議が当たり前になり、遠方のご家族ともコンタクトが取りやすく、離島の医療職とのカンファレンスもスムーズになりましたが、当時の苦労があってこそだと実感します。
仲間 今後取り組むべきことが山積する中で、いま私自身が直面しているのは医療的ケア児の知識をさらに深めることです。私は当センターに勤務して10年ほど経ちますが、最近、小児科の退院調整を担当するようになりました。でも、小児と成人では制度も違えば対応も違い、取り巻く家族(特に母親)や地域を含めた細かな配慮が必要とされます。保育や学業、養育環境などを考慮し、発達過程に必要な教育支援も含め、教育機関や行政も巻き込んで調整しなければなりません。慣れないうちは何もかも大変でしたが、やっていくうちに、「これって実は成人の看護にも役立つのでは?」と気づかされることもあります。視野を広げて学ぶと意外な発見がある、そんなことを実感しているところです。
前原 いま、私が興味を持っていることは2つあります。 1つは、治療と仕事の両立支援です。ケガや病気などが理由ですぐに仕事を辞めてしまう方がいます。でも、治療と並行して両立する道があるかもしれません。どうすれば本人や家族が望む生活を実現できるかを一緒に考えたいです。
2つめは、人材育成です。実習生の受け入れや指導だけでなく、大学や専門学校などの養成校に足を運んで、私たちと一緒に支援に携わる人材を確保・育成できるよう努めています。センター全体で底上げを図りたいですね。
仲間 2025年の移転を機に、当センターでは患者面談のための個室スペースを新たに設けました。これにより個室でお話しできる環境が整い、よりプライバシーに配慮した相談業務が可能になりました。周りの目や耳を気にすることなく、相談しやすい雰囲気になるのではないかと思っています。
前原 「医療福祉支援センターは何をする場所なのか、よく分からないから相談しにくい」と感じている人もおられると思います。でも、普段接している医師や看護師に言いづらいことも、当センターのスタッフに打ち明けてもらえれば解決できることがあるかもしれません。私たちは、皆さんに気軽に足を運んでいただきたいし、相談者が望んでくれるなら一緒に考えていきます。些細なことでも構いませんので、気軽に声をかけてくだされば幸いです。