琉球大学大学院医学研究科 胸部心臓血管外科学講座(琉球大学病院 第二外科)

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〒903-0215 沖縄県中頭郡西原町字上原207番地
Endovascular treatment / Stentgraft

血管内治療(ステント)
今後も需要が高まる新しい治療法

ステントグラフト治療 ~大動脈瘤に対する低侵襲治療~

 様々な医療分野で低侵襲(ていしんしゅう:体に負担の少ない)治療が、求められている今日ですが、大動脈瘤(りゅう)に対する手術治療においても新しい治療~ステントグラフト内挿術~が、開発され、急速に広まっています。
体力の落ちた高齢者や、呼吸器や心臓などの病気で従来の外科手術による治療(開胸・開腹による大動脈瘤切除・人工血管置術)は困難という患者さんにも有力な手術治療法となっています。
出血量や合併症も開胸手術より格段に少なく、入院期間、社会復帰までの期間も短くすみ、いろんな意味で患者さんの負担が減っています。

「大動脈瘤とは?」

 高齢化社会の進行と食生活の欧米化に伴い、動脈硬化に起因する疾患の増加が顕著になってきました。その中で大動脈径が正常径の50% 以上を超えて拡張した状態である大動脈瘤(りゅう)は、我々心臓血管外科医が扱う代表的な疾患のひとつです。大動脈瘤とはこの大動脈の一部が「瘤」=「こぶ」のように膨らんだ状態のことです。
大動脈瘤が怖いのは、無症状で進行し、突然破裂(=出血死)することがあります。大動脈瘤は破裂すると救命が困難になります。風船が、小さいうちは弾力がありますが、大きくなるに従い壁が硬く薄くなり容易に破裂しやすくなります。

「大動脈ステントグラフト内挿術とは?」

 大動脈ステントグラフト内挿術は、ステントと呼ばれる形状記憶合金の網状の筒とグラフトと呼ばれる人工血管素材を組み合わせたものです。これを棒状にした状態(傘のように細く折りたたんだ状態をイメージしてください)でシースという鉛筆ぐらいの太さの管に収めます。そのシースを体の表面近くを流れている(例えば股付近)動脈を切開して挿入し、患部(大動脈瘤の位置)まで押し進め、ステントグラフトをシースより押し出します(傘を開く状態)。押し出されたステントグラフトは形状記憶の作用と血圧により血管の内壁に押し当てられ血管の内部より患部を補強し、大動脈瘤が破裂するのを防ぎます。
この治療法は従来の手術と異なる全く新しい治療であり、手術適応の問題(動脈瘤の形、その位置で手術ができるかの制限が厳しい)や、耐久性の問題(手術実績がまだ10年程度)、治療効果の問題などがあり、手術後の定期的な検査・チェックが重要な治療でもあります。
しかし、ステントグラフトの品質改良により、今後更に多くの患者さんに対応できるステントグラフトが登場する見通しですし、すでに当施設でも実際に2009年からこの治療法を導入し、従来の手術では術後負担の大きい患者さんにも非常に有用な治療法であると実感しております。

「大動脈瘤と診断された方へ」

 残念ながら大動脈瘤は破裂するまで、多くの場合無症状で経過しますが、偶然発見され、且つ瘤が小さい場合、血圧のコントロールにより瘤の拡大を予防することができる場合があります。つまり集団検診におけるレントゲン、エコー及びCT検査などは早期発見において非常に有用となります。
大動脈瘤は一定の大きさ以上になると手術が必要になりますが、いまだ100%安全なものとは言えません。手術は、あくまで破裂予防のための手術なので、手術の危険性と破裂の危険性を十分に検討し、納得のうえでその後の方針を決めることになります。
上記のように大動脈瘤の治療法は格段に進歩しています。大動脈瘤と診断された方は早めに心臓血管外科専門医へ相談されることをお勧めします。

「ハイブリッド手術室完成!」

 低侵襲治療の手術成績向上には、医師の治療技術進歩は当然の事ながら、周辺機器および設備の充実・改善も非常に重要なポイントになります。その中でもハイブリッド手術室(開心術が可能な手術室で、設置型透視装置を備えていること)は不可欠な設備として、当施設にも設置されました。