琉球大学医学部附属病院 副院長・医療安全管理対策室長 大屋祐輔「医療安全の確保とは?」

 医療の原則は、「安全確保」と「患者中心」にあります。医療の発達と広がりが不十分だった過去とは違い、現代では、医療安全は当然確保されるべきものと考えられており、医療者自身もそれを確保するために努力しています。しかし、世の中では依然としてある一定数の医療事故が発生していることが知られています。このような残念なできごとは、何に起因しているのでしょうか?その医療を担当した当事者の問題もあるでしょう。しかし、現在の考え方では、人間は AI やロボットではありませんので、ある一定の確率でエラーを起こすため、とされています。1999年に米国科学アカデミー医学研究所が発表した医療過誤に関して報告書の中で使われた「To Err is Human(人は誰でも間違える)」という言葉が広く知られるようになりました。これを解決する方法は、医療者は人間であるためにミスが起こりうる可能性があることを前提に医療の安全確保対策を行うべきということです。また、「医療の不確実性」という言葉もあります。医療においては、同じ病気を患っていたとしても、患者さんの症状や経過、また、治療の効果などはそれぞれ異なっています。また、病状は刻々変わることなどから、医療の現場では予測できないことが数多く生じています。その瞬間・瞬間の判断では最善のことと思っても、次の瞬間は状況が変わって最善ではなくなってしまうことも起こります。このように予測に基づいた行動には、ある一定の不確実性が存在し、それに対応しきれないことが生じる可能性があるということです。
 しかし、これらの「To Err is Human」や「医療の不確実性」は医療の安全確保における免罪符ではありません。そのような人間の特性や医療の特性を踏まえた上で、最善の医療のためには、医療者個人の知識や技能を上げることに加えて、医療を行う当事者のみならず、周りの医療者、さらにそれ以外の職員、環境も含めて「システムとして」安全確保のための体制構築と対策に取り組むことが最も確実で有望な方法とされています。
 琉球大学医学部附属病院には「安全管理対策室」があり、患者さんの安全確保のために日々、活動を行っています。4月から副院長である私、大屋がその対策室長を務めております。私は、これまで沖縄県のすべての医療人の学びの施設である「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」に関わってきました。そこでは、医療者の技能を上げる取り組み、また、さまざまなエラーの可能性、不確実性から生じる状況を予防するためのトレーニングを、企画・実施してきました。これまでは、医療の現場から得られた経験を教育・トレーニングに生かしてきましたが、これからは、安全管理対策室の活動の中で、その教育・トレーニングを医療の現場に戻していくことを目標にしたいと思っています。おきなわクリニカルシミュレーションセンターは日本で最高の医療トレーニング施設の一つとされています。琉球大学医学部附属病院も日本で最高の医療安全対策が行われている病院になるべく、対策室員一同、さらに、がんばっていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。