医療安全の向上は良質な医療の重要な柱です 久木田 一朗

 言うまでもなく、医療は病で苦しんだり悩まされている患者さんを治したり、外傷の患者さんの命を救って元の体にしていく営みであります。その目的達成のために、古くは地元に自生する薬効を持つ植物、さらに漢方薬を使い、ヨーロッパでは近代的外科が発祥するまで床屋が外科を担う時代もありました。解剖学や生化学・薬学の進歩、麻酔や滅菌法の発展など長い歴史の中で、多くの人々が係わって現代医療に至っています。つまり、医療というのは最初から完成されたものではなく、徐々に人の手と英知、そして自然界の恵み(医薬品の起源)を集めて進歩してきました。

 話は変わりますが、体の外から診察して治療する科を内科と言い、体を開けて中を治療する科を外科というのはどうしてでしょう。理屈はともかくとして、皆さんがご存じの色々な専門科も時代とともに出来てきました。つまり医療や薬学というものは自然発生的に分化しながら良いところを集めてさらに全体として発展してきたと言えます。

 人はまた個々人で年齢、性別、体質などさまざまであり、同じ病気の症状でも、治療に対する効果でも違ってくることがあります。従って、現在の医療も決してこれで完成というものではありません。さらに、現代医療の発達は手術・処置やさまざまな医薬品の使用により、多くの注意を払わなければならなくなっています。

 自動車や航空機、宇宙技術、情報通信技術などの科学や文明の利器も私たちの暮らしをたいへん便利にしていますが、一方では毎年交通事故で多くの人が亡くなったりけがをしますし、情報通信技術も情報保護に問題が生じることがあります。しかし、人々はそれを捨てることはできないでしょう。医療も同様に患者さんを助けたいと思って行う行為や薬ではありますが、一方では危険性もあるわけです。

 当院では、医療安全を推進するため、医療安全に関する情報の共有とリスクの分析や起きたことから今後改善することによって事故を未然に防ぐ方策を考え、また研修を行っております。具体的には、安全管理対策室の設置、各部署からの事例報告(月約100回)、病院全体の事例報告収集(毎週および緊急時は随時)、分析担当者会議(月1回)、医療安全管理委員会(月1回)、リスクマネージャー連絡会議(月1回)、院内巡視(1回/3カ月)、大学病院間相互チェック(年1回)、全職員対象医療安全研修会(年4回以上)などを行っております。

 人は誰でも間違える、うっかりミスも起きうるという前提で、さまざまな安全策を作って実施しております。しかしながら、安全に対する備えはこれで十分ということはなく、より安全な医療を提供する病院にするという目的のもと日々改善を積み重ねております。それが良質な医療の提供へとつながると確信して。