整形外科は運動器疾患を診断・治療しています 金谷 文則

 一般の方は整形外科を何となく知っていても、整形外科=骨折?捻挫?と思っているかもしれません。実際には患者さんが病院・医院に受診する目的は「1位 腰痛、2位 肩凝り、3位 手足の関節痛」であり、整形外科疾患が上位3位を占めています。整形外科は運動器疾患を予防・治療します。運動器とは骨・関節・靭帯・筋・脊椎・脊髄・神経を含みます。簡単に言うと顎より下でお腹と胸の中を除く部分、頸椎から指先までが対象になります。人が動けるのは運動器のおかげであり、運動器は人間の生活のために必須の器官です。また、「歩く力は、生きる力だ。」と言われるように、今まで元気に歩いていたお年寄りが骨折により歩けなくなると寝たきりになりやすいこともよく知られています。

 このように運動器疾患が重要なことから世界保健機構(WHO)は2000年から2010年を「運動器の10年」に指定し、世界運動が開始されました。運動器障害に対する経費は脳の障害の4〜5倍(スウェーデン1991年)、1995年に米国での運動器疾患に要した経費は2149億ドル(約26兆円、同年の日本の国民医療費27兆円)に達しています。運動器疾患は発展途上国では生産力を低下させ、先進国では健康寿命を短縮させます。健康寿命とは介護・介助を要さない自立した生活を維持できる寿命です。日本は平均寿命世界一(男性78.07歳、女性84.93歳)、健康寿命世界一(男性71.40歳、女性75.80歳)を誇りますが、それでも男性で平均6.7年、女性で平均9.1年は人生の最後に介護・介助が必要になります。日本の健康達成度(OECD Health Date2005)は世界一と評価されていますが、平均寿命をこれ以上伸ばすことは生物学的に困難なことから介護・介助を要さない健康寿命の延伸が現段階の目的(健康日本21)になっています。

 健康寿命の延伸の大きな障害が「メタボ(肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病)」です。メタボでお悩みの方も多いと思いますが、安価で副作用が少ない治療法があれば素晴らしいと思いませんか?実は週3〜4回の適度な運動は「メタボ」を改善し健康寿命を延伸させます。私たち整形外科医は運動能力が低下している状態を「ロコモ」と呼びその改善による健康寿命の延伸に努めています。

 今回は、主に運動器、健康寿命と「ロコモ」の話をしました。皆様が思っていたのと違い、整形外科は余り手術をしていないと思うかもしれません。実際に整形外科は運動器全般を対象としますので、手術以外のたくさんの治療法を持っています。しかし中には手術をすれば良くなる、手術以外に治療法がない患者さんもたくさんおられます。私たち琉球大学医学部附属病院整形外科は高度先進医療を含めた関節外科、脊椎外科、手外科、マイクロサージャリー、スポーツ医学、リウマチの診断・治療を行っています。運動器で心配な点があれば、かかりつけ医に相談の上、一度整形外科を受診してみてはいかがですか。