栽みどりさんの記事に主治医より一言

 先日(1月21日)沖縄タイムスの夕刊に、琉球大学附属病院にて1995年2月に腎移植を受けられた栽みどりさんが紹介されました。昨年9月にハンガリーにて開催された第12回移植者スポーツ大会において、卓球ダブルスで金メダル、テニスで銅メダルを獲得しました。この大会は、スポーツを通し、与えられた臓器による生を謳歌し、臓器提供者への感謝を表すことを目的としています。その喜びをことさらに深く受け止めている主治医の気持ちを語ってもらいました。

 『末期腎不全の治療法には、車の両輪の如く透析療法と腎移植があり、生命の予後という点からはほぼ同じと言われております。しかし、生活の質の点からでは雲泥の差があります。ある患者さんは「霧が晴れ渡ったようだ」と、腎移植の後の感想を述べておりました。腎移植をすると厳しい食事制限から解放され、また、血液透析で費やされる時間を全部自分のものにできます。みどりさんの言うように、腎移植は「人生も変えた」ほどのすばらしさがあると思います。私は一人でも多くの腎不全患者さんに腎移植を行いたいと思っておりますが、現在の移植の問題点は腎の提供不足であります。生体腎には限りがありますし、また、移植の本来の姿は亡くなられた人の臓器を移植することであります。腎臓の移植は社会的になかなか難しい『脳死移植』でなく、心臓が止まった時点を死とする心臓死移植でも行えます。この社会がより一層腎不全を理解して、透析で苦しんでいる患者さんに暖かい目を向けてほしいと思っております。腎臓を灰にしてしまうその前に、亡くなられた身内の方が、確かにこの世に生きたというあかしとして、腎提供をご一考なされてはいかがでしょうか。そして、透析患者さんに『愛の贈り物』を届けてほしいと思います。

(泌尿器科 小山雄三)


「第5回 大学病院の緩和ケアを考える会」に参加して

 第5回大学病院の緩和ケアを考える会が、平成11年6月26日日本大学附属板橋病院で開催されました。参加者は、北海道から沖縄までの大学病院及び関連施設に勤務する、医師、看護婦、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー等、約250名の参加があり、当緩和ケア部門からは砂川洋子教授と私が参加しました。

 大学病院の緩和ケアを考える会は、発足して5年目を迎え、平安な看取りをしたいという熱意のある医療者に支えられ、各大学の緩和ケア活動報告を行うと共に、「がん告知の問題」、「ターミナル期における療養先の選択」、「疼痛緩和の問題」等、ホットなテーマで研究会を開催しています。

 私たちも、初めての全国のネットワークの会員になりました。ややもすれば、高度先進医療が優先されがちな大学病院の中で、終末期を迎えた患者さんの尊厳を守り、苦痛の緩和を図るため、これほど熱意ある取り組みをされている姿に、同じ大学病院に勤める者として、心の痛い思いをしました。研修プログラムの概要を紹介しますと、和歌山県立医大の開設したばかりの緩和ケア病棟では、家族が休養するお部屋まで設置されており、家族支援を含め、充実したケアをめざしているとのことでした。

 北里大学病院の「個室病棟における緩和ケアへの取り組み」では、患者さんの誕生会やクリスマス会をはじめ、お子さんやお孫さんの結婚式に参加できない患者さんのために、病室で結婚式を挙げる等、どのようにすれば患者さんのニーズに対応できるかということに、医療者が真剣に向き合っている姿が伝わってきました。発足したばかりの当緩和ケア部門からは、砂川教授が、「琉大病院における緩和ケア部門の新設置について」と題して報告されました。他病院は、緩和ケア部門を設置するのに同意が得られず悪戦苦闘しているところですが、当部門は病院改革の一環として、質の高い医療の提供を目的に病院長のサポートを受け、保健学科の看護系教官のご協力を頂き、精神科医、麻酔科医、看護婦の医療チームでの開設は、革新的ともいえ参加者の関心も高く質問も多くありました。シンポジウムでは、「緩和ケアに向ける医療者の心、医療者の葛藤と悩み」について、一般内科医師、緩和ケア病棟看護婦、カウンセラー、ナース、精神科医師(リエゾン医師)と、それぞれ専門的立場からの発表があり、会場からも熱のこもった討議が行われました。私が興味をもったのは、内科医の立場で「患者さんから人間のすごさを教えられながら」と題して発表された、横浜市立大学内科医の斎藤真理先生の報告は、鮮明に残っています。先生は末期医療患者さんとの出会いから、緩和ケアの奥深さを学ばれ、死の臨床に使命感を持って、今、この患者さんにとって大切なのは何かを、たえず患者さんと共に考える医療を実践されておられます。

 大学病院の緩和ケアは一握りの医療者の頑張りで支えているのが現状ではありますが、高度先進医療のすき間をうめる医療として、人の命を大切にするということ、人の死を看取ることのすばらしさを、若い医師や看護者に働きかける必要性を学びました。

(琉大病院総合診療センター緩和ケア部門)
(精神神経科 看護婦長 洲鎌則子)




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