IgA 腎症に対する扁摘パルス療法 患者さんの特徴に合わせて作戦を立てる

与座要 言語聴覚士(ST  IgA 腎症は透析導入の原因として2 番目に多い疾患です。病名にあるIgA というのは、のどの粘膜など細菌など外敵が侵入しやすい場所で防衛を担う大事な抗体の一種でミサイルのような働きをしています。
 IgA 腎症の患者ではこのIgA の不良品ができ血流にのって遠く離れた腎臓で炎症を引き起こすと考えられています。患者さんの多くは検診で血尿と蛋白尿の異常を指摘され腎生検(腎臓の組織を調べる検査)と呼ばれる精密検査を受けて診断されます。以前は効果的な治療がなく多くの患者が末期の腎不全から透析に至っていました。
 しかし現在、日本においては、のどの扁桃(不良品のIgAが作られる) を摘出する手術(耳鼻咽喉科で行います)と腎臓の炎症を強力に抑えるステロイドの点滴を組み合わせた「扁摘パルス療法」という非常に効果的な治療が開発され、多くの患者が透析にまで至らずにすむようになってきています。
 沖縄県では琉球大学医学部附属病院で初めてこの治療が導入され、過去15年間に200 例以上の治療実績があります。同じIgA 腎症の患者でも炎症に加えて腎臓の中の高血圧が悪さをしている場合もあり、患者ごとの特徴に応じてきめ細かな治療戦略を立てています。このようないわばオーダーメード的な治療によりほとんどの患者さんで血尿や蛋白尿が出ない状態(寛解)にまで改善させることができています。比較的若い患者さんの場合、約6 割は尿検査が完全に正常化した後は特別な治療や厳しい食事療法など不要になり実質的に治癒した状態にまで回復しています。
 中高年以降の患者でもよほど腎機能が低下していなければ多くの患者で透析に至るリスクを回避できています。また、他の病院で、もはや治療は困難だとされた例でも尿検査が正常化し腎機能の悪化を防げた症例も少なからず経験しています。
 経過が長いため、就職、進学、結婚、妊娠など個別に将来を見据えて治療方針を決めることが重要な病気です。今後は沖縄県のIgA 腎症による”透析導入ゼロ”を目指して、関係機関とネットワークを構築しより多くの患者さんに扁摘パルス療法を中心とした個別化治療を受けていただける仕組みを作っていきたいと考えています。 (注意:すでに透析をうけている患者さんでは扁摘パルス療法をうけても腎機能が回復する事はありません)