電子カルテでは処置・処方のオーダや所見・評価などを入力するだけでなく,病名やプロブレムも入力することになる.本稿では前者をmedical action,後者をepisodeと呼ぶことにする.
Episodeとmedical actionとを関連づけることにより,蓄積データの意義は飛躍的に向上する.また病歴データベースから保険診療報酬請求処理に必要な情報を引き出す際にも,的確な保険傷病名を自動的に抽出することができるようになる. 実際,東京医科歯科大学歯学部附属病院では,このような病歴データウエアハウスによって返却率(もしくは査定率)が1%以下になったし,医事会計処理も大幅に削減した.1)
しかし一方では,未熟なヒューマンインターフェイス(HI)のために,発生源入力をする医師等には負担をかけることとなった.次期システムにおいては洗練されたHIをデザインする必要性を痛感している.我々は病名と治療行為とをリンクさせる際の,より柔軟な操作環境を考案したので,これを報告する.2,3)
バッファエリア | 電子カルテ2号用紙画面での,入力と編集のための特定領域. 通常,1診療単位あるいは1つのencounter単位の全入力項目の受け皿. バッファエリアは,最上位ブロック,診療ブロック,最下位ブロック, ならびにエプロンから構成される. |
最上位ブロック | 1診療単位の全体に関わる入力項目が格納される領域. 例)日付や基本診療料など. |
診療ブロック | ヘッダとボディから成る. |
診療ブロックヘッダ | 1つ以上のepisodeが格納される. |
診療ブロックボディ | 1つ以上のmedical actionが格納される. また0個以上の,下位のブロック単位を持つことができる. |
サブブロック | 診療ブロック以下の下位のブロック単位.ヘッダとボディから成る. |
サブブロックヘッダ | 0個以上のepisodeが格納される. すなわち episode のフラグメンテーションを許容する(後述参照). |
サブブロックボディ | 1つ以上のmedical actionが格納される. また0個以上の,下位のブロック単位を持つことができる. すなわちブロックは多階層である.階層数は導入環境に依存する. |
最下位ブロック | 1診療単位の全体に関わる入力項目が格納される領域. |
エプロン | バッファエリアを編集する際に用いる,入力項目の一時待避領域. |
1号用紙画面保険傷病名欄またはプロブレムコンテナから引用されたEpisodeは,原則として,バッファエリア内でのepisodeの編集を許さない.すなわち既存のepisodeのfragmentationを許容しない.ただし以下の二項目は容認する;
・Parent episode喪失の抑制
1号用紙画面保険傷病名欄またはプロブレムコンテナから引用したepisodeによって形成された診療ブロックヘッダを編集して派生させたサブブロックヘッダは,他の診療ブロックへの移動を抑制する.なぜなら,episodeの変遷における整合性を損なう可能性が高いからである.なおバッファエリア内で新設したepisodについては,この限りではない.
・巡回性の抑制
ブロックの階層数を三層以上とした場合,そのバッファエリア内で上位層に指定されたepisodeを,下位層のサブブロックヘッダとすることを抑制する.グラフ構造を有するEpisode Netの非巡回性を保つためである.
医事会計に寄与するしないに関わらず,診療履歴の記録に必要なEpisodeとmedical actionは,全て格納することを前提としている.ただし一つの診療ブロックにおいて,少なくとも一つの診療ブロックヘッダには,医事会計サブシステムへ送信するためのフラグが立っていることを必須とする.
Episodeは,1号用紙画面保険傷病名欄もしくはプロブレムコンテナから,ドラッグ&ドロップできる.Medical actionは,オーダリングツールから自動形成されるか,あるいはエントリツールからドラッグ&ドロップできる.さらには,episodeもmedical actionも,過去の病歴からコピー&ペーストできる.
そのうえで,各種の入力項目を編集できるし,ブロックの再構成をも可能としている.そのため,個々の事項の入力順序さえも規定していない.
これらのことから,非常に自由度の高い入力編集環境を提供している.換言すれば,オペレータの多様な思考経過に沿った入力を可能としている.
加えて,診療ブロックを多階層で詳細に構成できることから,診療論理を正確に反映した記述を可能としている.なおmedical actionは,そのエイリアスを作成することによって,複数のブロックに配置できることも特筆に値する機能である.
当然ながら,ブロック内にはSOAPを記述することも可能である.またブロックからは,テンプレートを呼び出すこともできる.
Episodeとmedical actionとのリンク方法には幾つもの手法が考えられる.たとえば;
一方,本稿で報告したリンク方法は,上記3つの手法を全て包含するものである.そのうえで,さらに詳細かつ正確なリンクを可能としている.この点において優位性が認められる.しかし詳細さと自由度とを提供したために,かえって診療の論理性が毀損されかねない危険性を秘めているHIであることも,同時に認めざるをえない.
この問題は,電子カルテ2号用紙画面という・簡易な操作が求められる環境において,可能な限り診療論理を正確に反映するための機能を付加したことから生じた.このようなスタンスには批判もあろう.しかし論理の汚染を避けうる手段を提供することには意義がある.また電子カルテ2号用紙画面の入力編集HIとしては,十二分の機能を備えたデザインであろう.
参考文献