標準治療計画における medical action の扱い
  〜スレッドとパック〜

The Useful Handling Method of Medical Actions in CPR System
- thread and pack of encapsulated medical actions -

水口俊介,廣瀬康行,佐々木好幸,木下淳博,富樫秀夫,藤江昭

東京医科歯科大学 歯病 情報処理委員会 将来検討専門部会
住友電工システムズ(株)応用システム事業部
琉球大学
uploaded 1998.8.6
この稿は 廣瀬康行 が 東京医科歯科大学 に所属していた時に記したものである.
なお本稿は,第17回 医療情報学連合大会論文集 504-505, 1997 に発表済みである.

Abstract:
In the analysis of clinical logic and thinking pathway of doctors, we have recognized that information handling of atomic data as a thing had some merits in the support of decision making and the human interface in CPR system.
For realizing this, we encapsulated atomic data, data/information into 'CELL' and medical action into 'COURSE'. And more, we have found that COURSEs were not isolated mutually but they appeared as series or as combination, in planning of treatment.
Therefore, we designed COURSE to have couplers which "knows" other COURSEs coupled before/after/beside itself. Then, we call series of COURSEs 'THREAD', and combination of COURSEs 'PACK'. And we also designed "planning window" in CPR system in which operators were able to handle THREAD and PACK.

Keywords:
computerized patient record system, human interface, data handling, order entry method, clinical guideline

1. はじめに

 我々は診療論理情報ベースの構築と・その扱い(診療論理ワークベンチ)を考察するなかで,幾つかの知見を得てきた1,2).その一つに,「入力すべきatomicなデータや情報を,あたかも一個のモノのごとく扱うことには,医師の思考を支援する働きがある」とともに「実装システムのヒューマンインターフェイス(HI)における応用可能性の広さがある」ことを認識し,これを報告した.

 様々なデータや情報を統一した仕様でハンドリングするためには,カプセル化が必要となる.そこで我々は,atomicなデータや治療内容を入れる容器を セル(CELL) または コース(COURSE) と呼んだ.セルは観察事象や考察事象すなわちデータやインフォメーションを格納し,コースは検査や処方などのmedical actionを格納するものと位置づけた.1,2) 

 なお,medical actionの格納器を当時すでにコースと呼んでいた理由は,以下のことを意識していたからである; 診療計画の組立では,atomicなmedical actionが単一で現れることは少ない.むしろ,一連のもの・あるいは・一組のもの・として扱われることがしばしばである.また治療計画の中に組み込まれたmedical actionは,実施する場合にも・計画を再構成する場合にも,やはり一塊の機能単位として扱われることがある.

 したがって臨床での思考に即してmedical actionを扱うには,必要なmedical actionの束を一括してハンドリングすることが,極めて自然なのである.
 このような考え方やデザインは,本院の次期システムにおいても,機能仕様として採択された3).したがって本稿ならびに本大会の口演では,コースとそのハンドリングについての概要を,スレッドとパックを中心にして報告する.

2. 方法【デザイン】

2.1 定義

コース
atomicなmedical actionを一つだけ格納するためのデータ・カプセル.
ただし,Medical actionの実体を保有している必要はない.
コースは他のコースとの連結関係を保持する.また処理に関するフラグ(時刻による自動処理/イベントによる自動処理/マニュアルによるキック)も保持している.
しかしコースの連結は,格納された medical actionのオーダリング・ターゲット(部門など)によって,制約を受けることはない.

スレッド(THREAD)
一連のコース.コースの処理順序,すなわちmedical actionの実施順序に意味を有している場合,もしくはその順序が制約されている場合の扱い.なおスレッドを形成する際には,分岐や収束をも許容する.

パック(PACK)
複数のコースの組.順序の概念が必要ない場合の扱い.

2.2 適用範囲

 コースは,各種のツール間や機能画面間において,一塊のmedical actionの一括ハンドリングを可能とするHI環境を提供するための,カプセル機能である.

2.3 前提条件

 以下の機能を備えたシステム環境であること;

  1. オーダリングツールやエントリツールに加えて,標準看護計画や標準治療計画を格納する機能画面(=ウィンドウ)があること.
  2. 患者個別の看護計画や治療計画を格納する機能画面があること.
  3. オーダ列ならびにエントリ列の,バッファリング機能・再構成機能ならびにスケジューリング機能を有するミドルウエア(Order Communication Module:OCM).
 第三点目は,部門単位ごとのオーダ処理を強要するHIからの解放に必要である(定義ならびに考察を参照).

3. 結果【ハンドリングの概要】

3.1 標準計画の作成

 標準計画画面の中に,オーダリング・ツールやエントリ・ツールから,必要なコースをputする.Putしたコースの幾つかを選択して,スレッド化もしくはパック化の指示ボタンをクリックすることにより,スレッドやパックを形成する.スレッドやパックを表現している 連結線 が,複数個存在することも許容する.

3.2 特定の患者の計画の作成

 必要なスレッドやパックを,標準計画画面から患者個別の計画画面へと,ドラッグ&ドロップする.また個別計画画面では,患者や院内の状況などに即して,スレッドやパックを一塊として移動・削除・追加する.また連結線を切断して幾つかのコースを削除したり,新たにputしたコースを連結することもできる.
 このようにして,標準計画を下敷きとしながら,患者個別の計画を簡単に立案作表することができるし,その編集と再構成も容易に行える.

 計画したmedical actionを実施する際には,二つの方法がある;一つには,実施すべきコース(もしくはスレッドやパック)を選択したのち,実施ボタンをクリックする;今一つは,それらを個別計画画面から電子カルテ2号用紙へと移動させる.

4. 考察

 我々は診療論理情報ベースと診療論理ワークベンチの研究のなかで,「データや情報をモノのごとく扱うこと」は,医師の思考過程の支援においても・入力や編集のHIにおいても,有利であることを認識し,これを報告してきた.Medical actionをコースに格納し,コースをスレッドやパックとして扱う機能を実現することは,我々の研究の流れの一部である.

 本稿の主題はたしかにHIにおけるmedical actionオブジェクトのハンドリング技法ではあるが,その背景には,診療スタッフの思考過程の記録と・その自然な表現扱いという通奏低音が流れていることを強調しておきたい.4)

 本稿でいう標準計画画面と個別計画画面は,電子カルテ2号用紙では,そのまま標準計画画面と電子カーデックス画面として存在する.一方,診療論理ワークベンチでは,標準計画画面に対してはASp(ACTION SET pool)がほぼこれに相当し,個別計画画面はAP(ACTION PLAN)に相当している.なお近年はやりのケアマップは,本稿でいう標準計画画面に相当するものであろう.

 診療スタッフの思考においては,部門に対するオーダが始めに想起されるのではない.まずは患者の状態とその変化による診療ニーズが想起され,その後に,これらのニーズを部門へのオーダなどに再構成しているのである.電子カーデックスや診療論理ワークベンチにおいて・思考の流れに即してmedical actionをハンドリングするためには,臨床思考におけるsemanticsならびにcontextを強く意識した機能構造であるコースを礎として,スレッドやパックという機能を前提とする必要があろう.

 もしコースというカプセルの存在を認めるならば,それは同時に,「オーダは部門ごとに実施しなければならない」という馬鹿げた制約も取り払われることになる.これは特筆に値しよう.ただしこれを実現するには,強固かつ柔軟なOCMの存在が必須となる.

 筆者らは,どのようなデザインにせよ,実装システムのコーディングについては,その技法や言語を制約するつもりはない.とはいうものの,セル,コース,スレッド&パックというHIの機能は,結局のところobjectをイメージせざるをえないものと断じてよかろう.したがって,そう遠くない将来には,オブジェクト指向の技法や言語によるシステム設計ならびに構築は,避けられない途のように思われる.

参考文献

  1. 廣瀬康行ほか:Problem Oriented Medical RecordBase の構造ならびにハンドリングに関する一考察:第15回医療情報学連合大会論文集,569-570,1995.
  2. 廣瀬康行ほか:診療論理ワークベンチ:第16回医療情報学連合大会論文集,834-835,1996.
  3. 東京医科歯科大学歯学部附属病院情報処理委員会企画調整専門部会:東京医科歯科大学歯学部附属病院第2期診療情報システムの構想:http: //www.hosp.tmd.ac.jp/ dhis/design.html,1996.
  4. 廣瀬康行ほか:問題解決空間の定式化に関する考察:医療情報学,17(3) Suppl,185-192.1997.

mailto: Prof.Hirose