沖縄県におけるルイス式血液型の頻度とCA19-9極低値患者の解析
○ 田野口 優子1),屋嘉比 静子1),下地 里実2),山内 恵2)
1)琉球大学医学部附属病院輸血部, 2)同検査部
【目的】

 血清中のCA19-9(carbohydrate antigen19-9)の測定では,各種の消化器癌や膵癌,胆肝癌の患者に高頻度かつ高濃度の抗原が検出される。抗原はGal1-3GlcNAcの繰り返し構造(I型糖鎖)を基本骨格とするルイスA(Lea)の血液型糖鎖にシアル酸が結合したシアリルルイスAで,血清中には分子量500万以上の巨大シアロムチンとして他の糖鎖とともに存在する。CA19-9は,ルイス遺伝子を持たないルイス式血液型Le(a-b-)型のヒトでは合成されないため,測定限界値以下となる。日本人の約10%がルイス式血液型Le(a-b-)型であると言われているが,沖縄県民を対象としたルイス式血液型の調査はこれまでまったく行われていない。

 今回我々は,沖縄県民のルイス式血液型Le(a-b-)型の頻度を調査するとともに,ルイス遺伝子の欠損によるCA19-9の測定限界値以下がどの程度発生しているのかを試算し,CA19-9測定の限界について解析したので報告する。

【対象および方法】
 本院を受診した20歳〜94歳の患者395名を対象に,ルイス式血液型検査と血清のCA19-9値を測定した。同時に診療目的でCA19-9の検査を依頼された患者の中から,1.0U/ml未満の測定結果が得られた患者83名についてルイス式血液型検査を実施した。ルイス式血液型検査はオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社製のマウス由来抗LewisAと抗LewisB血清を用いて試験管法で行った。またCA19-9は富士レビオ社製の試薬を用いてChemiluminescent enzyme immunoassay(CLEIA)法で定量測定を実施した。

【結果】
 ルイス式血液型別の頻度は,Le(a-b+)型が68.4%(266人)と最も多く,次いでLe(a+b-)型が16.7%(60人),Le(a-b-)型が13.7%(54人),Le(a+b+)型1.3%(5人)であった。Le(a+b-)型はこれまで報告された頻度に比べて約2%低く,逆にLe(a-b-)型は2%高かった。日本人のLe(a+b+)型は極めて少ないと言われているが,今回Le(a+b+)型の患者が5名も確認されたことから,沖縄県民のLe(a+b+)型の割合は本土より高い可能性が示唆された。Le(a+b-)型およびLe(a-b+)のCA19-9の測定値はいずれも対数正規分布を示した。対数変換後のt検定ではLe(a+b-)型およびLe(a+b+)型は,それぞれの平均値が3.14(23.15U/ml),3.22(24.95/ml)で有意差は認められなかった。一方,Le(a-b+)型の平均値は2.23(9.33U/ml)でLe(a+b-)型およびLe(a+b+)型よりも低値を示し,明らかに有意差を認めた(p<0.0001)。Le(a-b-)型は他のルイス式血液型とは明らかに乖離し,すべての測定値が0.01〜0.30 U/ml の範囲内にあった。また,1.0U/ml未満の極端な低値を示した83名の患者のルイス式血液型は,すべてLe(a-b-)型であることも確認した。

【考察】
 ルイス遺伝子を持たないLe(a-b-)型はシアリルLea抗原を合成できず,CA19-9の測定値は0近辺になることが知られている。このため,消化器や膵,胆肝系悪性腫瘍の検査にはCA19-9の他に,別の腫瘍マーカーを併用して検査されることが多い。本院を受診した患者のルイス式血液型検査の結果から,ルイス遺伝子を持たないLe(a-b-)型が沖縄県民に占める割合は,約14%と推測された。今回の調査ではルイス式血液型別の頻度が最も高いLe(a-b+)型もCA19-9の測定値が低値を示したことから,Le(a-b+)型の中にもCA19-9単独検査により,膵臓・胆管系悪性腫瘍の見逃しが起こる可能性が示唆された。このことから,CA19-9単独検査によって膵臓・胆管系悪性腫瘍の見逃しが起こる割合は,Le(a-b-)型の14%よりもさらに多くなるものと考えられた。

 各種の消化器や膵,胆肝系悪性腫瘍の検査においてCA19-9は問題が多く,CA19-9の前駆物質(シアリルLeC抗原)であるDUPAN-2やCA50による確認検査が必要であると考える。

連絡先:098-895-1339(輸血部直通)