青木陽一 副病院長・産科婦人科長 巻頭の挨拶

医療の大きなパラダイムシフトに想う

 令和になりました。菅義偉官房長官が「令和」と額縁を翳してから、約半年です。
 今、医療はまさに100年に一度とも考えられる大きな変換・転換点にあり、ゲノム医療、ロボット手術、医療へのAI導入等、すでに大きく変わってきています。産婦人科領域から、その大きなパラダイムシフトを目にして、想うところを少し。
 2015 年 1 月、アメリカのオバマ前大統領のPrecision Medicine Initiative宣言以降、治療薬の選択や用量の設定だけでなく、個別の疾患予防対策を視野に入れた広い意味でのゲノム医療改革は、目をみはるものがあります。医療を施す場合には、患者さんのゲノム情報をもとにグループ分けし、そのグループごとの治療法の確立および予防医療の提供が、目指すべきものであるという考えです。
 ゆったりとした進歩だった婦人科がん領域でも、個人の元々のゲノム情報、がんのゲノム情報をもとに、診断・治療が検討・実施されています。これまでの治療は、がんの種類によって、適切な治療薬が選択されていました。今ではがんの種類によらず、ゲノム情報をもとに診断・治療を考えていく方法がどんどん導入されています。 婦人科がんのゲノム情報を取り入れた分子標的治療でも、数年前まで、保険収載されている分子標的薬は、卵巣がんに対する抗VEGF抗体のみでしたが、いまや子宮頸がんに抗VEGF抗体、卵巣がんのPARP阻害薬、さらに高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI- High)を有する固形癌(子宮体がん、子宮頸がん、子宮肉腫、卵巣がん等)に免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになりました。これらは、がんの種類によらず、ゲノムの特徴により、がん種横断的に効果が期待されています。そして、最近では数種類の免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬とこれにマルチキナーゼ阻害薬、抗VEGF抗体の組み合わせの臨床試験・治験が目白押しの状況です。あまりの急展開に混乱しそうですが、ワンパターンの抗がん剤治療は終焉を迎えつつあります。 診断の領域でも新型出生前診断である母体血胎児染色体検査、卵巣がんの乳癌卵巣癌遺伝子検査 (BRCA1/2)や子宮体癌のリンチ症候群遺伝子検査、高頻度マイクロサテライト不安定性、がん遺伝子パネル検査等、臨床の現場において大きな変化が現れています。
 医療の大きなパラダイムシフトに伴い、以前の診断・治療とは全く様相を異にしてきました。今までにないような劇的な効果も目の当たりにし、その進歩を実感し始めています。しかし、いまでも医療の現場での一番の EBM(科学的根拠に基づく医療)は、自施設である琉大病院での治療成績のフィードバックであり、それを患者さんにいつでも説明し、治療していくことだと考えています。最新の診断・治療はもちろん取り入れつつ、自分たちが医療を行う環境での施設データが、症例報告も含め一番のエビデンスだと思っています。