重症大動脈弁狭窄症治療の新たな選択肢、「TAVI(タビ)」 永野 貴昭  第二外科 診療講師
 大動脈弁狭窄症(AS)は大動脈弁の開放が制限される病態で、原因は、リウマチ性、先天性、炎症や放射線障害によるもの、加齢による動脈硬化性変化によるものなどです。重症ASの自然経過(内服加療含む)は不良で、狭心症状を伴う場合は生命予後5年、失神をともなう場合は3年、心不全を伴う場合は2年といわれています。以前は開胸による大動脈弁置換術が唯一の治療法でしたが、加齢による動脈硬化性が病因のほとんどである現在では、症状出現は80歳頃と高齢で、身体の脆弱性や合併疾患のために開胸手術不能例、ハイリスクな患者さんが少なからず存在します。このような患者さんに対して、開胸せずにカテーテルを用いて大動脈弁位に生体弁を留置する治療法が経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI:タビ)です。重症ASに対する体に負担の少ない低侵襲治療であるTAVIは、本邦でも2013年10月からエドワーズ社のSapien ValveR(バルーン拡張型)が認可され、本年5月には全国163施設で、累計症例数が15,000例を超える状況です。当院でも2015年8 月1 日、沖縄県初のTAVI 認定施設として登録され、同月12 日当施設ハートチーム(責任医師 國吉幸男第二外科教授、第三内科 岩淵成志、第二外科 永野貴昭)でTAVI 開始し、現在まで143例施行しました。その早期治療成績ですが、患者さんの内訳は、男性49例、女性94例で、平均年齢86.0±4.7歳(79-97歳)と超高齢者でした。他府県のTAVI認定主要施設に比べて高齢かつ重症度・脆弱性の高い状況でしたが、周術期死亡はなく、自宅退院率も80%と良好な成績でした。平均手技時間も90±36分で、手技に熟練した最近では30分前後まで短縮しており、患者さんへの負担もかなり軽減されています。特記すべきこととしては、他施設からご紹介いただいた患者さんの中には、消化管手術・骨折手術の術前精査で、重症ASを診断され、全身麻酔・手術ハイリスクのため、先行治療としてのTAVIも行われるようになりました。2018年度からはメドトロニック社のCoreValve EvolutR(自己拡張型)も使用開始し、これまでTAVI適応外であった患者さんにも治療適用可能となっています。
 このようにハイリスクAS患者に対するTAVIは、新たな治療選択肢として本邦でも確立されつつあります。本治療実施には患者背景に沿った適正な術式選択が肝要で、また術後長期のフォローが必要なものの、本術式は患者の術後QOLを維持可能で、有効な代替治療と考えられ、デバイスの進化とともに更なる適応拡大が期待されます。 このTAVIに関するご連絡ご質問は、医療情報提供書を、第三内科岩淵成志あるいは第二外科永野貴昭宛で、本院医療福祉支援センター(シエント)098-895-1371、FAX:098-895-1498へお願いします。