AST(抗菌薬適正使用支援)チーム特集 仲松正司 感染対策室

「抗菌薬適正使用支援チーム
   (AST:Antimicrobial Stewardship Team)とは」

 近年、抗菌薬(≒抗生物質)適正使用の重要性が叫ばれています。薬剤を適正に使用するのは当たり前の事なのですが、どうして今、抗菌薬適正使用が問題となっているのでしょうか。
 最大の原因は抗菌薬が効かない菌(=耐性菌)が世界中に拡散していることです。1980年代以降、ヒトや動物への抗菌薬の使用増加、ヒトに対する抗菌薬の不適切な使用を背景として耐性菌が世界中に増加し続けています。
 耐性菌が増えるとどういうことが起きるでしょうか。例えば、ちょっとした皮膚の擦り傷や風邪をこじらせて肺炎にかかってしまった場合、通常であれば抗菌薬で治療することが可能です。しかし(多剤)耐性菌に感染してしまった場合、抗菌薬での治療が効かず、命に危険が及んでしまうことが起こりえるのです。
 この危機的状況に対し世界各国、日本で対策が始まっています。当院でも2018年4月から医師、薬剤師、検査技師、看護師の多職種で構成するチーム(抗菌薬適正使用支援チーム)で抗菌薬適正使用を支援する活動を開始しています。皆様が入院中に新たな感染症にかかった場合、抗菌薬を使用せざるを得ない状況になったときには、主治医と連携して、副作用や耐性菌の増加を最小限に抑え、抗菌薬の効果を最大限に発揮するような感染症の治療をサポートしていけるように活動を行っています。
 今後AST活動を通して、琉大病院に入院される皆様方の感染症診療・治療のサポートを行い、安心・安全に入院生活を送ることができるよう精一杯活動していきたいと考えています。

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潮平英郎 薬剤部/感染対策チーム(ICT)/抗菌薬適正使用支援チーム(AST)感染制御専門薬剤師

「抗菌薬適正使用チーム(AST)における薬剤師の役割」

 第二次世界対戦が終結した1945年のノーベル生理学・医学賞受賞者と受賞理由をご存知でしょうか?受賞者はアレクサンダー・フレミング他2名,受賞理由は「ペニシリンの発見,および種々の伝染病に対するその治療効果の発見」でした。20世紀前半,死に至る病であった感染症は「魔法の弾丸」と呼ばれた抗菌薬の発見により治せる病へと変わりました。ところが21世紀初頭の現在,抗菌薬に対する薬剤耐性菌が国際的な脅威としてサミットの議題となり,いつしか「post antibiotic era」即ち抗菌薬登場以前の医療へ回帰した時代の到来が現実味を帯びて来ました。我が国では薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが進められており,平成30年診療報酬改定において「抗菌薬適正使用加算」が新設されました。この様な取り組みを推進する理由とはなんでしょう? 1945年のノーベルレクチャーにおいてフレミングが既にこう述べています。
 〜ペニシリンが商店で誰でも買うことができる時代が来るかもしれない。そのとき,必要量以下の用量で内服して,体内の微生物に非致死量の薬剤を曝露させることで,薬剤耐性菌を生み出してしまう恐れがある。〜中略〜ペニシリンを使うなら,十分量を使うこと〜 
 ASTにおける薬剤師の役割は,患者への利益を最大限得ながら,薬剤耐性菌を生み出さない「抗菌薬の使用をお手伝いすること」と考えます。更に,専門薬剤師は実務に加えて研究・教育も実践していきます。どうぞよろしくお願い致します。