呉屋真人 病院長

巻頭挨拶
 腎がんは全がん患者の約3%程度とされ、尿路悪性腫瘍のなかでは前立腺がん、膀胱がんに次いで多い腫瘍です。腎がんに対しては、4p以下の小径腫瘍においても、対側腎機能に問題がなければ全摘除術が行われてきましたが、最近は腎部分切除術による治療成績や安全面においても全摘除術と変わらないことが分かってきて、また術後の腎機能温存(慢性腎臓病発症リスク軽減)の観点からも小径腫瘍に対しては、腎部分切除術が推奨されています。しかし、開腹による腎部分切除術は術後の疼痛、社会復帰まで長期間を要するなど侵襲が大きく、術後のQOL低下のリスクが高い手術でした。1990年代より、低侵襲手術として腹腔鏡下腎部分切除術が行われるようになりました。本術式は二次元視野のもと、低可動域の鉗子を用いて手術を行うため、繊細な操作を行うことに難点が残りました。腎部分切除術の場合、腎臓の血流を一時的に遮断して腎臓の切除と縫合を行いますが、これらの操作に高度な腹腔鏡手術の技術を要し、開腹手術に比べ血流遮断時間が長くなり、結果、術後の腎機能低下のリスクを高める場合がありました。
 これに対し、RAPNは拡大3D視野を確認しながら、精密で自由度の高い鉗子で、腎の切除、縫合を行うことで、癌の根治性と術後の機能温存の両立を可能にした斬新な腹腔鏡手術です。2016年4月に、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP)についでRAPNが保険適応になると、国内でも急速にその手術件数が増加しています。ロボットアームに触覚がないことが欠点とされますが、これらの施設ではすでに多くのRARPの経験があり、腎がんに対する腎部分切除術への応用として、RAPNが導入されたものと思われます。
ダビンチサージカルシステム  当科では、年間20数例の腎部分切除術を実施しており、約半数が腹腔鏡手術によります。2017年2月からはダビンチサージカルシステム TMの部分を上付きに(写真)よるRARPを開始し、1年半の運用期間で50数例の経験を得ることができました。この度、RAPNを導入することで、これまで以上に術後の腎機能にやさしい低侵襲治療を提供できるものと考えております。