乳児股関節脱臼の診断遅延ゼロへの取り組み 先天性股関節脱臼は痛くない

神谷武志 小児整形外科医師(リハ ビリテーション部 講師)
 先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)とは赤ちゃんの股関節が外れている状態です。「痛そう」「歩けない」というイメージを持つ方が多いですが、そうではありません。外傷による脱臼とは異なり、関節包(関節を包む袋)や靭帯、軟骨などが出生前から正常とは異なった緩んだ状態であり、たとえ股関節が脱臼していても痛みがなく、歩行も可能です。股を開けないこと(股関節開排制限)が特徴ですが、たとえ脱臼していても脚を広げることができる場合があり、身体所見のみでの診断は容易ではありません。
 2011年の先天性股関節脱臼の全国調査(対象1295例)で1歳以降に診断されたのは15%(199例)であり、1例を除く全例が公的乳児健診を受けていたにも関わらず、脱臼と診断されていませんでした。この全国調査の結果を踏まえて、乳児股関節検診体制を見直す動きが始まり、乳児健診時の危険因子を考慮したスクリーニングの実施が勧められました。
 先天性股関節脱臼の危険因子である①女児、②家族歴、③骨盤位分娩、④太ももやお尻のしわの左右差、⑤脚の開きが悪いという5項目のうち①〜④の2項目以上が陽性の場合、または⑤が陽性の場合には乳児股関節二次検診として整形外科医に紹介される仕組みです。沖縄県小児保健協会を中心に県内の小児科医、保健師、助産師を対象とした乳児股関節脱臼に関する勉強会と健診マニュアルの改訂を行い、琉球大学医学部附属病院、離島を含む各県立病院、多くの県内の病院および開業の整形外科医が連携し、平成28年4月より乳児股関節スクリーニングが開始されました。このスクリーニング開始後は乳児健診後の診断遅延例は発生しておらず、乳児股関節脱臼の診断遅延ゼロを目指したこうした取り組みは着実に効果を上げています。
股関節
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