トッピックス1「動注化学放射線療法」

放射線部 副部長 平安名 常一

 琉球大学病院放射線科は「がん患者の緩和治療」の研究を積極的に進めています。一般にがんの治療は手術・化学療法・放射線治療の3本柱で行われますが、欧米では実にがん患者の70%が体に優しい治療法として放射線治療を選択しています。放射線治療が体に優しい理由としては副作用があまり強くなく、外来でも治療が受けられる点、体にメスを入れないので、臓器を切り取らずに済むという点が挙げられます。しかしながら、日本ではがん患者の30%しか放射線治療の恩恵を受けておらず、残念なことに沖縄県においては全国最下位の結果となっています。
 時として、がんは再発・転移を来し患者を苦しめますが、がんが骨に転移する骨転移はその最たるものとなっています。骨転移の痛みは薬物療法のみでは決して楽になることはありません。しかしながら、骨転移の痛みは放射線治療により患者の60〜90%で痛みが軽減することが分かっています。この様に薬物療法で対応困難ながんの痛みも放射線治療により楽になるという点が体に優しい治療と言われる理由となっているのです。
 しかし、全ての再発・転移がんに対して放射線治療が有効というわけではなく、様々な治療を行ってきたものの、がんの痛みが中々、楽にならないという患者も少なからずおられます。そのような難治性の再発・転移がんの苦痛に対して、琉大病院放射線科では2013年より放射線治療に画像下治療(超音波・CT・血管造影検査などを用いて行う治療)を組み合わせた方法で更なる疼痛緩和を目指す研究を開始しています。画像下治療も低侵襲で体に優しい治療法であり、その1つに動注化学療法というものがあります。動注化学療法はカテーテルという細い管を足の付け根より血管(動脈)内に挿入して、目標とする腫瘍の栄養血管までカテーテルを進め、そのカテーテルより腫瘍の栄養血管に抗がん剤を直接注入する治療法です。点滴で抗がん剤を投与する一般的な全身化学療法に比べ、動注化学療法はより高濃度の抗がん剤を腫瘍に投与することができるのが大きな特徴です。これまで動注化学療法は、転移性肝臓がんなどで優れた治療実績があります(イラストは転移性肝臓がんに対する例で、同様な方法で他のがんにも応用し治療を行っています)。この動注化学療法と放射線治療を同時併用する(動注化学放射線治療)ことで難治性がんの症状緩和の達成が期待されます。根治治療の領域において動注化学放射線治療は進行頭頸部癌を主体として行われていますが、緩和治療の領域においてはまだ始まったばかりです。放射線治療においては後進県である沖縄から動注化学放射線治療による根治治療と共に動注化学療法による緩和治療を積極的に発信していきたいと思っています。
肝臓がんに対する動注化学療法