琉球大学医学部附属病院 副病院長・脳神経外科長
琉球大学医学部附属病院
副病院長・脳神経外科長

石内 勝吾

特集:病院新体制

脳機能温存手術と脳賦活学構築樹立をめざした歳月

琉球大学大学院医学研究科脳神経外科学講座は昭和59年4月1日に開講され、今年で丁度30周年を迎えました。初代教授六川二郎先生は機能的外科がご専門で、先生の代表的学術論文(Jpn J Psychiatr Neurol 1991)の中で先生が開発されたForel-H 野手術の適応について脳外科医のあるべき姿を述べています。外科医は脳細胞をablation*1したり神経活動の伝播を遮断したりするのではなく大脳神経細胞の機能的な異常を正常化するという観点から手術を行わなければならない、また手術を受けるてんかん患者が長年にわたり病気に苦しんでいる事を忘れてはならず、医師はてんかん症状に向き合うだ_けではなく患者の心や社会的な環境にまで心を配る事が肝要であるー六川先生はその卓越した指導力と情熱を持って教室を主宰され、教育、研究、診療とくに地域医療の充実に尽力されました。現在、県下の基幹病院で管理者を務める多くの方が先生の薫陶を受けられました。先生は平成23年、医師会分科会活動(通称 四金会)により叙位叙勲(従四位瑞宝中綬賞)されました。先生が心を砕いて盛り上げた学術集団である四金会はその後も活発に活動し、現在会員数70名、学術集会開催数は108回になります。
 第2代教授 吉井與志彦先生は、脳腫瘍治療に対する高気圧酸素療法の応用や現在医学科4年生が行っている離島地域病院実習(RITOプロ*2)などは先生が文科省に提案なさったものです。先生は在職中に沖縄県下の離島・僻地医療の解決に心血を注ぎました。またその社会活動は地方裁判所専門委 員など司法の領域も含む幅広いものでした。私は先生とは専門分野も同じで古くからの知り合いでしたので赴任にあたり丁寧な引継ぎを受け、また先生が担われた幅広い分野での要職を「君を推薦しておいた」と継承の手配をしていただき感謝しております。
 このように琉球大学医学部附属病院脳神経外科はその開設時から外科技術の修得を超えて脳神経外科疾患に伴う脳機能障害の病態解明とその治療に邁進し、さらに病により障害された脳機能の賦活獲得という大きな課題の達成を目標としながら発展してきました。現在、術中MRIの導入やナビゲーショ ンにPET画像やトラクトグラフィー(神経回路)の情報を入力した画像誘導手術と神経機能モニタリングを駆使する手術環境が整いました。これは患者の機能を温存しながら最大限の治療成果を期待するものです。関連施設からは次々と高度化手術症例が紹介されて来ています。ポリクリ実習の医学生たちはその画像誘導手術を見学して最先端医療の現場で学習しています。病気のみならず背景の心や脳の仕組みを理解する次世代医師の育成が期待されます。これは時代がまさに要求している医療といえるでしょう。


初代六川二郎 教授第2代吉井與志彦 教授

*1:(手術による)除去。切除。 *2:離島へき地医療の現状・実態を把握するとともに、重要性を理解するため、医学生が離島地域中核病院で実習を行うプログラム。